<ニュース>
『心の病対策、企業の義務に』

 厚生労働省は、企業が従業員のメンタルヘルス(心の健康)に配慮することを促すため、労働安全衛生法を改正する方針を決めた。

 従業員が抱える心の病やストレスの状況について、職場の上司や産業医が診断結果などを通して把握することを義務付ける。労働者のメンタルヘルス問題はこれまで、強制力のない指針によって国の対策が示されていたが、労働者の自殺数が年間約8000人に上ることを重視し、同省は施策を強化することにした。今年夏ごろまでに内容を具体化し、次期通常国会に改正法案を提出する。

 同法には現在、「事業者は労働者の健康に配慮して、従事する作業を適切に管理するように努めなければならない」との規定がある。同省は、この規定を発展させ、従業員の「心身の負荷」を企業側が把握した上で、適切な措置を講ずるよう義務付ける方針。現行法では、企業は従業員の健康診断を実施し、必要がある場合には医師などから意見を聞いて、適切な措置を講じることが定められているが、従業員は会社が行う健康診断では、相談しにくいケースが多いとされる。

 このため、改正法では、従業員が外部の精神科医の診断を受け、結果を会社に提出した場合にも、適切な措置を講じるよう企業に義務付けるなど、従業員が不調を感じたときに、専門医の診断を受けやすくする内容が盛り込まれる見通しだ。

 企業側への罰則は設けられない見込み。しかし、同省は、精神疾患などにかかった従業員が、企業を相手に損害賠償訴訟を起こした場合、改正法によって企業の不作為が問われるケースも想定されることから、対策を促す効果があるとみている。ただ、ストレスの感じ方には個人差があることや、家庭や個人生活上のストレスとどう区別するかなど、課題も残っている。同省は医師や学識経験者ら10人による検討会をすでに設置し、議論している。

 従業員のメンタルヘルス対策では、旧労働省が2000年8月、「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」を策定、企業に従業員からの相談に応じたり、職場環境を改善したりすることを求めている。

 しかし、労働者の自殺数は、年間8000人前後で減少せず、2002年には8215人に上っている。また、全国の約1万6000人の労働者を対象にした同年の調査では、仕事上の「強い不安、悩み、ストレスがある」と回答した人が61・5%に達している。

 ◆労働安全衛生法=労働災害事故や職業病などの健康被害を予防し、快適な職場環境をつくるため、企業に産業医や安全衛生委員会の設置、健康診断の実施などを求めている。対象は原則として民間企業。国家公務員については、人事院規則で同種の安全対策が規定されている。(読売新聞)
[5月2日3時5分更新]

コメント

お気に入り日記の更新

日記内を検索